日本思想史における「神話」
「神話」の機能
物事の起源や来歴を語り現実を根拠づける
個人の経験を超えた事象を説明する
世界や人間の社会、そして自己のアイデンティティを規定する
歴史に見た「神話」
古代の神話がそのまま享受されてきたのではない
現実の側の歴史に応じて、変化を遂げながら繰り返し多様に語り直されてきた
神話が現実を説明する〈真実の物語〉と見做される限り、個々のテキストを超えて変わらぬひとつのものであることが要求される
→不変の民族・国民という幻想
壬申の乱(672)以後、天武系王朝によって推し進められた律令国家形成の完成期
天皇中心として成り立つ世界がどのような来歴を経て現在の姿に至ったか、それを根源から語るテキスト
『古事記』
漢文としての格を逸脱し、和語を表現することを志向する
「古事」
世界の始まりから、書物として成立した「今」よりも一世紀ほど前の時点までの過去の総体を、「今」の時代の彼方にあって「今」を支える基盤
『日本書紀』
正格の漢文を志向する
『古事記』の世界像
『古事記』上中下三巻
上巻 神代の物語
地上における葦原中国と呼ばれる世界の成り立ちと天皇の祖先による支配権の確立
世界像
「天地初発之時、於高天原成神名…」:冒頭の一文
世界の始まりにおいて天はすでに高天原という名を持ち、その成立の経緯は語られないまま所与の世界として存在する
地
↓
高天原に成ったアメノミナカヌシ・タカミムスヒ以下の天神たちの導きによって地上に葦原中国が形成される
↓
高天原の主神であるアマテラスの子孫が葦原中国の支配者として降臨する
巧みに構成された諸エピソード
天神の七代の末に成ったイザナキ・イザナミの二神は、天神たちに地上世界の形成を命じられ、天から降り夫婦となって国土を生む
途中で火神を生んだイザナミが火傷で死ぬと、イザナキはこれを追って黄泉国へ往還し、穢れを落とすための禊からアマテラス・スサノヲらを生むが、スサノヲの乱行を畏れたアマテラスは天の岩屋に閉じこもり世界に闇をもたらす
ここではアマテラスの不在が高天原のみならず葦原中国をも暗黒の混乱状態に陥れたことが語られ、地上にまで及ぶアマテラスの力が強調される
アマテラスの孫ホノニニギが、アマテラスおよびタカミムスヒの命を受けて葦原中国の統治者として降臨する
=天皇の地上支配の正統性
葦原中国をとりまく地上の諸世界との関係:物語の横糸
黄泉国
死の穢れと畏れに彩られた
根之堅洲国(ねのかたすくに)、海神の国
オホアナムヂやホホデミといった葦原中国の王たるべき存在に力を与える典型的な物語的な異世界
常世国
↑葦原中国との関係性においてのみ語られ、その起源や成立が説明されるわけではない
=葦原中国の輪郭が決定される